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泥中に咲く蓮のように [日々雑録]

岡村孝子さんの「T’s GARDEN」というコンサートへ行ってきました。
長らく演劇業界で仕事をしていますので、
一度も行ったことのない劇場というのは随分と少なくなりましたが、
今回生まれて初めて行く千葉県松戸の「森のホール21」という劇場へ。
名前の通り、緑が揺れる森の中にある素敵なホールです。

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岡村孝子さんのような有名アーティストの東京公演なら、
アクセスしやすい大都市のホールで行なわれることがほとんどですが、
「あなたの街で岡村孝子がホームパーティーを開くので気軽に遊びに来てください」
といったスタンスで全国各地をめぐるアットホームな公演。
とても岡村孝子さんらしい企画です。

このブログでも何度か綴っていますが、
14歳の時から岡村孝子さんが紡ぐ音楽と言葉に導かれ続け、
劇作家となった今では、自身のアイデンティティーに関して、
「物書きとしての細胞はこの人の音楽と言葉によってかたちづくられている」
そう断言できるくらい、人生において切り離すことができない存在。
自身の活動が忙しくなってからは、長らく足が遠ざかっていたのですが、
昨年夏からふたたび、劇場に足を運んで、音楽と言葉の海に溺れるようになりました。

『夢をあきらめないで』がもっとも有名な岡村孝子さんの音楽は、
聴く人の心を優しく包み込み、励ます作品が多いのですが、
そういう曲を含めて、僕は気がつくと、その音楽と言葉の世界に「溺れて」います。
今も溺れています。
包まれているんじゃなくて、溺れているのでわりと苦しかったりもします。
どうしてなのだろう、と考えたこともありませんでしたが、
昨日は、森の中を歩いて帰りながら、苦しさの訳について考えました。

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ところで、僕自身の仕事である演劇作品の脚本や演出は、
言葉を厳選し、会話を起こし、シーンを作り、作品として組み上げていく、
という意味では多くの「選択」と「決定」を繰り返してゆく仕事なわけですが、
正直、音楽と比べると、とてもフォルムが曖昧でファジーな仕事です。
執筆、稽古の各ステップで、「ニュアンス」の幅を最小限まで狭めていきますが、
完全なる「点」になることは殆どなく、ある程度の幅を残します。
それが楽しかったり、時には歯がゆかったりする面白い表現スタイルです。

それにひきかえ、音楽って演劇よりもフォルムがかっちりしていて、
しかもレコーディングをして、それがずっと後世に残ってゆくので、
聴衆が耳にする作品の「完全性」は演劇の比ではない気がします。
その完全性を湛えた作品の奥に隠れている、
制作段階の「苦悶」や、「反動」や「裏返し」といった作者の核心がきっとあって、
僕はこの核心部分に向かって、無意識にズルズルと引き込まれ、
どんなに優しい歌声や旋律や言葉でさえも、凶器のように心臓に突き刺さる……、
緑川にとっての岡村孝子さんの世界は、そんなスパルタ的存在です(笑)。
もしかすると、多くのファンの方が感じるものとは随分と違うのかも知れません。


若い頃に生み出す作品というのは、人間としての葛藤をストレートに表現しやすい、
そんな特徴を持った創作時期なのだろうと思いますが、
経験を重ねて、後輩ができて、家庭を持って、親になって、、、
そんなふうに年を重ねてゆくと、人間としての葛藤は相変わらずたくさんあっても、
それをストレートに表現する機会やチャンネルがだんだんと失われていき、
逆に、周囲を勇気づけるとか、導くとか、模範になるとか、
表現者じゃなくとも、大人たちはそんな役割を求められていきます。
でも、大人だって、若い頃と同じように、あるいはそれ以上に葛藤し続けているんですよね。

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だから、作品という最終形として、どんなに優しく、どんなに柔らかな顔をしていようと、
その音楽が生み出される過程の苦しみに思いを馳せずにはいられません。
そんな気持ちを持ちながら、コンサートに足を運ぶと、
曲と曲のあいだのおしゃべりタイムが、とても奥深い時間に感じられます。
言葉ひとつひとつを選び、迷いながら、丁寧にお話をする姿に、
作品づくりの際に、きっといっぱい苦しんだであろう苦悶が重なります。
そんなことを感じながら聴く旋律や言葉に、溺れずにいられる訳がありません。
溺れているわけですから、とても苦しく、波の上へ浮かび上がりたい気持ちにもなりますが、
でも、このもがき苦しむ時間が、僕をここまで導いてくれたということを知っているので、
僕は岡村さんの音楽と言葉の海に溺れ続けているのだと思います。


岡村孝子さんもMCでこんなお話をしていました。

「『甦る』とか『Reborn(生まれ変わる)』とか、
あいつは何回生まれ変わるつもりなんだ、と思われるかも知れませんが……(笑)」。
まさしく、闇から光を目指して、苦悶しまくっているんですよね。

僕は、泥中に咲く蓮の花を思いました。

毎日心がささくれ立つ出来事もいっぱいありますが、
けっして腐らず、夢を抱いて、理想を追って、
困難に向き合って、どんなときも超えていきたい、
そんな勇気が湧いてきた夜でした。

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ついつい長くなってしまいました。。
岡村孝子さんの音楽の世界を考える時間は、
まるで自分自身の沼を覗き込む行為のようです。


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